【ドッグトレーナー|望月翼】「人に可愛がられる天才」がスタッフを可愛がり、挑戦を支える理由

大阪を拠点に、ドッグスクール「One Partner」の代表を務める望月翼さん。飼い主の自宅を訪ねる「訪問しつけ」や、ワンちゃんの社会性を育む「犬の幼稚園」などを展開する傍ら、一般社団法人の理事長として保護犬譲渡施設兼ドッグラン「鶴見緑地パートナードッグタウン」の運営も手がけています。

現在は経営者として多角的な事業を展開する望月さんですが、その歩みは波瀾万丈そのもの。3歳での砂浜テント生活に始まり、独立後には全財産を失い事務所で寝泊まりする極貧時代を経験。住まいも収入も失った状態から、独学と営業現場でビジネスの仕組みを叩き込んできました。

そんな激動のなかで北原孝彦さんに出会います。北原さんが代表を務めるビジネススクールUBM(※)への入会後は、あえて自身の「弱さ」をさらけ出すことで会社のスタッフとの絆を深め、組織を成長させています。

「動物業界の基準となる会社を作りたい」と話す望月さんに、これまでの歩みを聞きました。

※UBM(ビジネス行動管理大学):北原孝彦が代表を務めるビジネス塾。2020年に「北原の精神と時の部屋」として設立、2024年11月に現名称に改称。

社会性を育み、問題行動を解消するドッグトレーニング

―― ドッグスクール「One Partner」の内容について、改めて教えてください。

主に3つのサービスを提供しています。飼い主さんのご自宅を訪ねる「訪問しつけ」、ワンちゃんをお預かりして社会性を育む「犬の幼稚園」、より深い悩みやしつけの定着を目指す「トレーニングコース」です。

―― ワンちゃんの「社会化」や「問題行動」とは、具体的にどういうことですか?

簡単にいえば、社会化とは「コミュニケーション能力を育てること」です。

人間の子どもと同じように考えると、非常に分かりやすいです。他者と関わったことがないまま大人になると、人との距離感が分からず上手く関われませんよね。ワンちゃんも同じで、犬同士で遊んだ経験が不足していると「分からないもの=怖いもの」と勘違いして、恐怖心が「吠え」や「噛みつき」などの攻撃性として出てしまう。これが「問題行動」の正体です。

―― 恐怖が攻撃性に変わってしまうのですね。

そうなんです。そのため「犬の幼稚園」では安全な環境で犬同士を遊ばせ、正しく社会性を養うことに重きを置いています。トレーニングでは「ほかの犬や人は怖くないんだよ」と勘違いを解き、人間の言葉で行動を抑制できるように訓練します。

ただ、一番大切なのは、飼い主さん自身が愛犬としっかりコミュニケーションを取れるようになること。そのため「トレーニングコース」においては飼い主さんへの指導やアドバイスにも力を入れています。

僕のInstagramでも、ワンちゃんのトレーニングについての発信をしています。

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―― 他にはどのような事業を展開しているのですか?

ドッグランやイベント運営をしています。

2024年に継承した「鶴見緑地パートナードッグタウン」にて、保護犬の譲渡会や会員制ドッグランを運営しています。ここではドッグトレーナー同士の交流会やマルシェを開催して、「横のつながり」を作ることに力を入れています。

―― なぜ「横のつながり」が必要なのでしょうか。

この業界は少し閉鎖的で、トレーニング方法の流派があるんです。その流派があることはいいと思いますが、他社のやり方を否定して、自分たちのやり方を肯定する発信の仕方が良くないと考えています。ごく簡単にいうと、叱って伸ばすか、褒めて伸ばすかに分かれます。

とはいえワンちゃんによって性格は異なるので、一番大切なのは「その子に合った方法」を見つけることです。トレーナー同士がつながり情報交換ができれば、より広い視野を持って目の前のワンちゃんに向き合えます。業界全体をボトムアップさせたい思いが強いです。

記憶の原点は海辺でのテント生活。過酷な経験から得た適応力

―― 望月さんのこれまでについても聞かせてください。昔から、動物が好きだったのですか?

はい。生き物全般が好きでした。父も生き物が好きだったので、その影響もあると思います。一番幼い頃の記憶は3歳頃です。そのときは父、母と一緒に神戸の舞子の砂浜で、テント生活をしていたんです。そこで、ナナちゃんという小型犬と暮らしていました。

―― テント生活!?

家計の問題でやむを得ず、約半年間はホームレス状態でした。でも、辛いと思ったことは全然なくて。浜辺でヤドカリなどの生き物を捕まえて、楽しく暮らしていました。その後は、団地に引っ越しました。

小学校に入学したあとも、相変わらず生き物は好きでしてね。カマキリやカエルを捕まえたり亀を飼ったり……。その後、小学2年生の頃に引っ越しを機に転校したのですが、ここが人生の転換期だったんです。

―― 転換期?何があったんですか……?

転校先でいじめられるようになってしまって……。もともと通っていた小学校はやんちゃな人が多くて、僕も茶髪で学校に行っていたんです。勉強も全然していませんでした。

転校先は真面目な学校だったので、浮いてしまって。靴や教科書を隠されたり、石を投げられたり、辛い記憶ばかり残っています。

―― それは辛いですね。その後はどのように前を向いていきましたか?

中学校に入ってからバレーボールを始めたのですが、これが向いていたようで、1年生のときからレギュラーメンバーに選ばれたんです。小学生時代のいじめの経験から自分への自信をなくしていましたが、「バレーボールなら活躍できるかも」と自信を持てました。

高校は、バレーボールの強豪校に入学。周りは実力のあるメンバーばかりでしたが、努力の甲斐あって最終的にはスタメンに選んでもらえました。これも、僕のなかで大切な成功体験です。

「働きたくない」を覆した、ドッグトレーニングへの感動

―― その後、進路はどのように選んだのですか。

動物業界の専門学校に進学しました。もともと生き物が好きなので、動物業界に興味があったんです。いろいろと調べていくなかで「ドッグトレーナー」という職業を知り、面白そうだと思って。

―― 数ある選択肢から、なぜドッグトレーナーを選んだのですか?

正直にいうと、当時の僕はそもそも働きたくなかったんですよね働くことに全然いいイメージがなくて、どうせ働くならやりがいのある仕事をしたいと思っていたんです。

専門学校に入学し、初めてしっかり訓練されたワンちゃんを目の当たりにしました。「ワンちゃんって、こんなに意思疎通が図れるものなんだ!」と感動し、極めてみたいと思いました。

―― まさに、やりがいを見つけたのですね!

最初の頃は、同じワンちゃんでも講師の指示には従うのに僕の指示には従わない……なんてことばかりで、苦戦しました。「どうすればこの子の気持ちを理解できるんだろう」とたくさん試行錯誤しましたね。

優秀なトレーナーは、瞬時にワンちゃんの性質を見抜いて、的確なコミュニケーションをとれるんです。特に頭のいいワンちゃんほど「こうしたら遊んでくれる!」と人間をコントロールしようとするので、私たちはそれを理解したうえで接しなければいけません。

2年間の在学期間を経て、ワンちゃんを理解する技術と経験を身につけました。

相手が喜びそうなことをする。新卒時代に磨いた、可愛がられる技術

―― その後は卒業後はどのような道に進んだのですか?

奈良のドッグスクールに就職しました。ドッグトレーナーは、最初の一年間はワンちゃんに触らせてもらえないことが多いんです。ですが、僕はそのへんの立ち回りが得意でして。先輩に可愛がってもらえていたので、入社半年ほどで、すでにトレーナーとして担当のワンちゃんを持たせてもらえていました。

―― 北原さんもよく仰る「可愛がられる人になる」をすでに体現していたんですね。どんなことを意識していましたか?

会社の先輩と積極的にコミュニケーションを取っていました。僕はセミナーなど1対nの会話は苦手なのですが、人と話すことはすごく好きなんです。加えて相手の気持ちを汲み取るのが得意なので「後輩から頼られたら、きっと嬉しいだろうな」と思って、意図的に甘えたり頼ったりしていましたね。

―― その会社は二年で退職したそうですが、何があったんですか?

動物関連とは全然違う業界で「この人についていきたい!」と思える人との出会いがあったんです。その人はプログラミングや映像編集のスクールを運営していて、着いていくためには、まずは100万円かけてスクールを受講する必要がありました。貯金はなかったので、4社の消費者金融からお金を借りて、勤めていたドッグスクールも退職。その憧れの人には「望月は営業をやったほうがいい」と言われ、スクールの営業の仕事を始めました。独立という名のニート状態でしたね。

―― 衝撃的な展開ですね!!

ですがね……僕は人見知りな一面があり、吃音症によって上手く話せないこともあって、営業の仕事では全然稼げなかったんです。お金も家もなかったので、毎日事務所に寝泊まりしていました。最終的に憧れだった人が海外に逃亡してしまい、幕を閉じたのですが、そこで、営業に対しての抵抗が無くなりとてもいい経験となりました。

その後はコールセンターでアルバイトをしてさらに営業技術を磨き、最終的には役員として会社の経営に関わるポジションに抜擢されました。

培ったビジネス知識を武器に、「One Partner」設立へ

―― その後、ドッグトレーナーを再開したのですね。

はい。まずは個人事業で訪問トレーニングの事業を行い、ドッグスクール「One Partner」を立ち上げたのが2023年のことです。トレーナーとしての技術はすでに持っていたし、営業を通して集客やビジネスの知識も身についたので、それを糧にドッグスクールをスタートさせました。

―― スキルをフル動員しての再開ですね!

ありがたくも、ドッグスクールは順調に成長しました。ただ、もう一つの事業であるドッグランのほうが大変で……。

―― どんな状況だったのですか?

2024年にドッグラン事業を引き継いだのですが、10年間赤字が続いている会社でした。家賃150万円に対し、継承の時点で口座の残高が十数万円。どう考えても、支払いが不可能でした。そのため、急遽クラウドファンディングで400万円の資金を集めました。

―― 400万円達成!?素晴らしいですね。

ただ、家賃支払いや設備投資はできたものの、そこからは黒字化を目指して立て直していくフェーズなので大変でした。加えて、プライベートの方でも大きな動きがあり、同年の7月に子どもが生まれたんです。12月には愛犬も迎え入れました。事業再建と育児に奮闘し、寝る間もなく働いていましたね。

「可愛がられる」から「人を可愛がる」経営者になると決めた

―― UBMには、いつ入会したのですか。

2025年11月に入会しました。以前から北原さんのYouTubeを見ていて、動画で語られていることは入会前からすでに実践していたんです。

たとえば、北原さんがいつも「リスクを取るな」とおっしゃっていることから、僕のドッグスクール事業はレベニューシェアで始めたんです。「売上の◯パーセントを施設側に支払う」と契約していたので、リスクは小さく始められました。

※リトリート:仕事や日常から離れて、静かな場所で数日間過ごし、心身をリフレッシュさせる旅のこと。北原孝彦アカデミーでは、熱海・長野・仙台・大阪・福岡など年数回のリトリートを行っている。

※レベニューシェアとは、成果報酬型の契約方式。発注者側と受注者側で、事業の収益を分配する契約を結ぶ。

―― 入会前から、すでに実践を!入会に至るには、どんな理由があったのですか?

ドッグスクール事業が軌道に乗ってスタッフを雇い始めてから、新たな課題が浮上したんです。

―― 課題とは?

僕は「人から可愛がられること」は得意ですが、「人の可愛がり方」が分からなかったんです。

過去の僕はノウハウに走りがちで、スタッフに対して手取り足取り教えることが「教育」だと思っていました。その点、北原さんは僕と真逆です。知識も持っているけど、それよりも生き方や考え方を大事にして、弟子たちに伝えていますよね。

僕も「人としてもっと成長したい」と思い、UBMへの入会を決めました。その後、北原さんとより近い場所で学べる北原孝彦アカデミー(※)(以下、アカデミー)にも入りました。

※北原孝彦アカデミー:UBM(ビジネス行動管理大学)の学びをベースにしながら、北原孝彦のより近くで学ぶ区画。北原氏が直接指導にあたる。メンバーは経営スキルだけでなく、人としての在り方を学ぶ。

「実はポンコツなんです」。弱さをさらけ出して得たチームの絆

―― アカデミーに入会してから、何か変化はありましたか?

アカデミー生と接することで、自分自身の見せ方や発信の仕方が変わりました。過去の僕は汲み取り力が高いぶん、相手の悩みを予測し、先回りしてアドバイスをしていました。しかし、自分の生き方や考え方を人に伝えて自己開示をするようになってから、周りの反応が変わったんです。

―― どんな変化があったのですか?

自分のプライベートの話をしたり、スタッフに自分の「できないところ」をあえて見せるようにしたりしてから、関係性が変わりました。スタッフが、僕にいろいろと相談をしてくれるようになりました。

僕は営業やクレーム対応はできますが、事務作業はすごく苦手なんです。職場にカバンを忘れて帰ってしまうほど、うっかりしているときもあります。アドバイスをするだけでなく、ダメな一面も隠さずに「ポンコツなんです」と正直に伝えるようにしました。

―― 自分を「ポンコツ」と伝えるのは、勇気がいりそうです。

昔から、僕はなぜかしっかり者に見られることが多いんです。しかし、完璧ではないと伝えたことでスタッフも壁を感じなくなったようでした。何より、僕自身も他人を頼ることに抵抗がなくなりましたね。

そういえば、森井伸明さんも同じような考えのようです。自分がポンコツであることを周りに理解してもらうことで、かえって強いチームができる。そして代表として、何があっても責任は自分が取る、みんなは必ず守る。こんなことをメンバーに伝えているそうです。 

―― 自分を正直に見せていくことが大切だと感じられたですね。

そう思います。自分の見せ方を変えてからはオーラが出始めたのか、同じようなドッグスクールを運営している企業から、スタッフ教育の依頼なども受けるようになりました。

動物業界の基準を作り、誰もが「働きたい」と思える会社へ

―― 事業を通して、今後何を成し遂げたいですか?

動物業界の基準となる会社を作りたいです。昔に比べるとかなり前進しましたが、この業界は労働環境が整っていなかったり、人間関係にも派閥があったり……。「この会社なら働きたい」と思える代表例のような企業が、まだ多くはない業界だと感じています。「ペット業界ならOne Partnerに入れれば幸せ」と思われる会社にしていきたいですね。

―― 素敵な野望ですね。そのためには、何が必要でしょうか?

給料や休日などの労働環境の整備ももちろんですが、何よりも挑戦できる環境を作っていきたいです。

―― 挑戦というと?

最近は、実際にスタッフから「ノーズワークのプログラムを取り入れたい」という声が出ています。そのための研修を受ける費用を会社で負担したり集客をスタッフに任せてみたり、従業員の成長意欲をかたちにする取り組みを、今まさに行っているところです。ドッグダンスができるスタッフもいるので「じゃあ、学んでおいで」と勉強する機会を提供したりもしています。

※ノーズワークとは、犬が本来持つ嗅覚を使い、においの発生源(おやつやおもちゃ)を探し当てる訓練。

※ドッグダンスは、音楽に合わせて犬と飼い主がペアで踊るドッグスポーツ。

―― スタッフの「やりたい」を叶えられる環境を作っていくのですね。

ドッグトレーナーは「独立してなんぼだ」と言われがちな業界です。でも、それには「労働環境や人間関係が複雑だから独立せざるを得ない」という側面も含まれています。もちろん独立したい人はそれでもいいですが、なかには独立や経営が苦手な人もいますよね。そんな人たちも安心してみんな活躍できる、会社を作っていきたいです。


取材を終えて

望月さんのお話を伺い、「可愛がられるスキル」は最強だと改めて感じました。業界の知識や経験とは関係なく、この人に任せてみたいと思わせる力……それは素直な感情表現、ちょうどいい隙、聞き上手なリアクションなど。そういう人間的な魅力が、実はビジネスに大きく影響しているんですよね。

そして望月さんが素晴らしいのは、可愛がられるだけで終わらないところです。組織を率いる立場になってからは、今度は自分がスタッフを可愛がる側に。その両方を自然体でできてしまうのは、人間心理をよく分かっているからこそ。人間のことが分かるから、ワンちゃんのこともよく理解できるのでしょうね。とても魅力的な方だと感じました!

(記事制作:ひとひら企画/インタビュアー:渡辺まりこ、人生の軌跡グラフ制作:Emodea・相場綾香)

※掲載情報は2026年4月現在のものです。最新情報は公式サイト等をご確認ください。