【トリミングサロン|橋本律子】ワンちゃんとの信頼を紡ぐ「滞在型サロン」が作る、ペット業界の未来

兵庫県宝塚市で「ハッピーケアサロンクッキー」を営む橋本律子さん。短時間で施術を行うサロンが多いなか、橋本さんは最低5時間をワンちゃんと共に過ごす「滞在型トリミングサロン」を運営しています。

現在は同業者向けの交流会なども精力的に行う橋本さんですが、ここにたどり着くまでにはさまざまな挫折がありました。13回の転居を経験した幼少期。独立後、業界の低単価に抗えず疲弊していた日々。 

そんな橋本さんを変えたのは、北原孝彦さんとの出会いです。「同じ想いをもつ仲間と共に、ワンちゃんと飼い主さんが心から安心できる場所を作りたい」、そう力強く語る橋本さんの、これまでの歩みを伺いました。

あえて長時間滞在し、ワンちゃんにとっての安心を作る

ーー「滞在型サロン」は、普通のサロンとどう違うんですか。

一般的なトリミングサロンでは、約2時間でテキパキと効率よくトリミングを行います。ですが、そのような環境ではワンちゃんがサロンに慣れることができず「怖い場所」と覚えてしまい、「もう行きたくない」と感じてしまう子が多いんです。

一方、私のサロンでは、5〜10時間ほどお預かりしています。トリミング作業自体は1〜2時間ほどですが、残りの時間は食べたり、寝たり、遊んだりしながらコミュニケーションを大切にしています。ずっと作業を続けることはワンちゃんの負担になるため、リラックスした流れのなかでトリミングを受けてもらうスタイルです。対象は小型・中型犬。予約は1日3枠限定で、各枠に複数頭をお受けしています。 

ーー ワンちゃんたちは、どんなふうに過ごしているんですか。

フリースペースでワンちゃん同士で遊んだり、おトイレさせたり、ケージに入ったりしながら過ごします。普段からケージに慣れていないと、万が一の災害時にも嫌がって入ってくれず避難が遅れてしまうため、あえてケージに入る時間も確保しています。

サロンで過ごしている間は、安心して第二の我が家のようにぐっすり寝ている子が多いです。ワンちゃんが楽しそうにサロンに入っていくので、飼い主さんも安心して預けてくれます。

ワンちゃんごとに合った施術をするための、丁寧なカウンセリング

ーー 橋本さんのもとにはどんなお客様が来るのでしょうか。

「ワンちゃんがサロンに行くのを嫌がる、暴れる」という悩みをお持ちの方が多いです。子犬の飼い主さんや、初めてワンちゃんを飼う方も多く「愛犬にとって負担の少ないトリミングをしてほしい」と相談に来ます。

そのため、まずカウンセリングでじっくり顔合わせすることを徹底しています。

ーー カウンセリングでは、どんなことを聞くんですか。

まずは、飼い主さんのご意向や希望をお聞きします。トリミングというとカットのイメージが強いですが、本来トリミングとは「全身エステ」であり、健康維持のためのケアなんです。爪切り、耳掃除、足裏の毛のカット、 シャンプーで皮膚を清潔に保ちます。そのため、毛の伸びないワンちゃんでも定期的に来てもらっています。

ワンちゃんによっては、最初はトリミングをせずに30分だけお預かりする「ならし保育」から始める子もいます。「行ったらおやつをもらって楽しかった」と覚えてもらうことが、信頼につながるんです。

ーー どのようにワンちゃんと接していますか。

応用行動分析学(ABA)を用いてワンちゃんの学習パターンに当てはめて接しています。「リードを持ったら散歩」「器を持ったらごはんの時間」など、ワンちゃんは前後のつながりを学習しているんです。

一方で、ネガティブなことも覚えてしまう一面もあります。たとえば、飼い主さんの「大丈夫よ」の言葉の後に嫌なことが起き続けると、その言葉が不安のトリガーになってしまうんです。このような心理を飼い主さんに共有し、声のかけ方を一緒に考えています。 

ーー 安心させるための言葉が、不安の原因にもなるのですね。ワンちゃんの気持ちはどうやって読み取るんですか。

仕草や身体の動きを見ています。たとえば白目が見えてきたり、耳が倒れたりといった動作は、不快のサインです。噛む・暴れるのは最終手段で、実はその前に小さなサインをたくさん出しているんです。

トリミング中はサインを読み取り「今日は無理せずやめておこう」と判断することもあります。効率重視でテキパキこなすことより、ワンちゃんのペースに合わせることが、負担の少ない施術につながるんです。

このような知見を活かし、トリミングのお客様限定でペットホテルも運営しています。また、飼い主さんへお手入れ方法のレクチャーをしたり、同業者同士での交流会も開催していますね。

「あの後悔を忘れないように」店名に刻んだ誓い 

ーー 店名が「ハッピーケアサロンクッキー」ですよね。「クッキー」にはどんな意味があるのでしょうか。

クッキーは、私が小学3年生のとき、初めて飼ったワンちゃんの名前です。雑種の女の子で、とても可愛がっていました。しかし、6年生のとき、引っ越しとともに手放したんです。幼少期から中学校3年生までに、13回の転居を経験しました。

ーー 手放した?どうして13回も引っ越しを?

父が事業の仲間の連帯保証人になっていて、その人が姿を消してしまって……家族で多額の借金を背負うことになったんです。中学3年生まで、大阪市内、愛媛、その後また大阪……と、転々としていました。

ーー 大変な環境で過ごしたのですね。

正直、ちゃんとした家庭ではなかったですね。しかも、父は動物をもらってきたり拾ってきたりする人で、犬2匹、猫6匹、インコ3羽、ハムスター、スズメ……家のなかは常に動物だらけでした。 

そんな環境で育ったからか、私は動物が好きになりました。でも人付き合いはそうはいかなくて、コミュニケーションがどうしても苦手で。小学3年生のときにはストレスが体に出てしまい、胃潰瘍と自律神経失調症で入院を経験したほどです。 

ーー そこまで人付き合いに悩んだのですね……。その後、クッキーとは再会できましたか?

いいえ。残念ながら、クッキーはその後どうなったのかは、今でも分からないんです。殺処分されてしまったかもしれません。

昭和の時代は動物を拾ってきて飼い始めることも決して珍しくありませんでしたが、無責任な飼い方をしてしまったと、ずっと後悔しています。「その後悔を忘れてはいけない」という戒めから、お店の名前に「クッキー」を入れました。

「とりあえず」で始めたトリマーが、自分の天職に

ーーやはり動物関係の仕事に就きたいと思っていたのですか。  

そうです。動物に関わる仕事がしたくて、最初は動物園の飼育係を目指していました。でも学費が高くて断念して。半年ほどフリーターをしながら可能性を模索していたときに、13万円ほどで通える大阪のトリミング専門学校を見つけました。「トリマーになりたい」という強い意志があったというより、金銭的にそこしか選択肢がなかったというのが正直なところです。「とりあえずここにしよう」と、19歳のときに入学を決めました。 

ーー 最初は消去法的な選択だったのですね。

入学前は、トリミングってワンちゃんの耳を変な色に染めるなど「自然じゃないこと」をするイメージで、あまり好きではなかったんです。でも、実際に学んでみたら「トリミングは健康維持のためのものなんだ」と分かりました。

また、私はもともと彫刻など美術が好きだったので、カットで形を作っていくのが楽しいと感じました。そして 「なんて素晴らしい仕事なんだ!」と思い、現在までずっとこの仕事を続けています。

心身の酷使と、積み上がらない売上。経営の知識不足による苦戦の日々 

ーー まさに天職だったんですね!卒業後のことも教えてください。

2年間学んだ後、学校に残らないかと誘っていただき1年ほど生徒のカットの仕上げを担当しました。その翌年からは、講師として9年間働きました。

2005年、31歳の誕生日に独立し、宝塚市に「ペットサロンクッキー」を立ち上げました。現在のサロンの前身にあたります。

ーー 独立後は順調でしたか? 

いいえ。毎日忙しいのに売上が上がらず、心身共に疲れ果てていましたね。

当時は、施術1回の料金が4500円で、2時間以内で仕上げる計算でした。次の予約が詰まっているので、ワンちゃんが嫌がっても時間内に終わらせなければならなかったんです。

それに、トリミング業界は相場がとても安くて……。私たちが思う価値とはそぐわない。でも値上げするとお客様が来ない。そんなジレンマがありました。

ーー 確かに、時給換算で2000円台は安すぎますね……。

はい。忙しくてもお金は貯まらない状態が続きました。人とのコミュニケーションが苦手だったので、料金を上げたくても言い出せない。お客様が増えて嬉しい反面、身体は限界でした。

その後子どもが生まれ、開業から1年半ほどで一度お店を閉店。2009年には場所を移転してサロンを再開。料金も7000円ほどに値上げしました。2012年には夫もスタッフとして合流しましたが、模索が続きました。

ペットの経営塾で学び、売上は倍以上に

ーー 再出発をしてから、何か変化はありましたか? 

2012年頃から業界内で勉強会やセミナーが開かれるようになり、少しずつ横のつながりが増えてきたんです。

当時ペット用のハサミや道具を扱うワンクスクリエーション」代表の森朋(もりたぐい)さんにお世話になっていたのですが、森さんが立ち上げた「ペットの経営塾」に声をかけてもらったのがきっかけでした。

ーー ペットの経営塾?何を教わるんですか?

経営理念の考え方から価格設定、事業計画書の書き方、数字の見方まで、全部丁寧に教えていただき、今の私の土台になっています。

経営塾はもう終了してしまったのですが、今でも森さんにはずっとお世話になっています。何も分からなかった私に手取り足取り教えてくれた恩人です。2016年には名前を「ハッピーケアサロンクッキー」に変更しました。

ーー 最初に橋本さんにビジネスを教えてくれたのが森さんなんですね。経営に変化はありましたか。

はい、大きく変化しました。料金を平均単価1万円に値上げし、滞在型のサロンに方向転換しました。その結果、時間に追われることがなくなり、年商も夫婦合わせて750万円だったのが、ピーク時には1700万円近くまで成長しました。同じ人数で同じ場所でも、やり方を変えるだけでここまで変わるんだと実感しました。

「やってはいけないこと」をフルコンプ。改めて経営を学び直すため、UBMへ

ーー すでに経営塾で学んでいた橋本さん。なぜ北原さんのもとに?

森さんのおかげで売上は伸びていたのですが、お金が全然手元に残らなくて、危機感を覚えたんです。

もともと北原さんのFacebookグループ「北原メシ(※)」(現在は募集終了)に参加していて、存在は知っていました。2024年頃、ある投稿をきっかけに北原さんのYouTubeを見てみたら衝撃を受けて……端から端まで1カ月ほど見続けました。

※北原メシ:「北原の精神と時の部屋」の前身となったビジネスコミュニティ。北原孝彦を囲って食事をしながら、事業つくりにキーポイントとなる3要素、プロダクト、マーケティング、経営を学ぶ会。

ーー 衝撃を受けたのはなぜでしょうか……!?

私、北原さんが「やってはいけない」と仰っていること、ほぼ全部やっていたんです(苦笑)。システムやホームページにお金をかけすぎて、ディフェンスができていない。だから年商が上がってもお金が手元に残らなかったのかとようやく気が付きました。

さらに、人との関係も大切にできていないなど、問題点が次々と浮き彫りになりましたね。経営者というと「お金第一」のイメージがあったのですが、北原さんの「人とのつながりや家族との時間を大事にする」という姿勢に感動し、2024年9月にUBM(※)に入りました。

※UBM(ビジネス行動管理大学):北原孝彦が代表を務めるビジネス塾。2020年に「北原の精神と時の部屋」として設立、2024年11月に現名称に改称。

ーー 大きな気づきですね!その後、どのような行動をとったのですか。

同年10月に弟子区画(※)(現在は募集終了)に入りました。一人だとなかなか達成できないことが、人と約束することで続けられると思ったんです。

月報を出す、継続してやりきる、定点観測をして振り返るといった、経営者として大切な習慣がついてきましたね。集客数も入会前の約5倍になりました。

※弟子区画:「3年間は挑戦から逃げない」と北原孝彦と約束した人が参加する。毎月の月報提出に加え、弟子合宿では全員が活動報告を行う。現在は募集を終了している。

ーー 5倍!そういえばGoogleマップの口コミ数も、たくさんの件数が集まってますよね。 

はい。以前の私は人を頼るのがすごく苦手で、お客様に口コミもお願いできなくて……。

しかし、北原さんの「お願いしても死にはしないし、自分を信頼してくれる人なら大丈夫だ」の言葉を聞いて「その通りだ」と思えるようになりました。それまではお願いすらしてこなかったので「ちゃんと人との関わりを作っていこう」と、自分のスタンスが変わりましたね。2026年3月からは、北原孝彦アカデミー(※)にも参加しています。

※北原孝彦アカデミー:UBM(ビジネス行動管理大学)の学びをベースにしながら、北原孝彦のより近くで学ぶ区画。北原氏が直接指導にあたる。メンバーは経営スキルだけでなく、人としての在り方を学ぶ。

ーー 北原さんのどんなところに惹かれていますか。

一番惹かれているのは、人とのつながりを絶対に手放さないところです。実は私、親の借金をまだ抱えている状況で、入会していいものか北原さんに相談したんです。それでもまったく問題にせず、快く受け入れてくださって。「この人は自ら手を離さない人だ」と強く感じました。私もそういう人間になりたいと思っています。 

ーー 現在は、同業者さんとの交流も行っているんですよね。

はい。2026年から、交流会や同業者向けの勉強会を始めました。価格設定の仕方、飼い主さんへのコミュニケーションの取り方の他、UBMで学んだことのシェアもしています。一人で経営している人が多い業界なので、みんなで悩みを共有する場にもなっていますね。

特に「飼い主さんとうまくコミュニケーションが取れない」「無理に毛玉を解いてしまい、ワンちゃんへ負担をかけてしまう」などの悩みは、よくお聞きします。お客様(飼い主さん)と良い関係を築き、ワンちゃんへの負担も軽減できるサロンが増えるよう、サポートしていきたいです。

ーー 素敵な取り組みですね!交流会は北原さんからの学びがきっかけで始めたんですか?

以前も飼い主さん向けのセミナーなどを行っていましたが、正直にいうと「自分のお金の補填のため」という側面がありました。

北原さんから「人の役に立つためにやる」の視点を学んでからは、交流会のスタンスを全面的に見直しました。交流会は基本的に無料で実施し、リピーターも増えてどんどんつながりが育まれています。

ワンちゃんにも飼い主にも優しい「命を軽視しない業界」を作りたい

ーー 最後に、橋本さんの思い描く「トリミング業界の理想の未来」を教えてください。

トリミング業界は低単価で時間に追われて、ワンちゃんの気持ちを無視した効率重視になりがちな一面があります。しかし、交流会で同業者の皆さんに話を聞くと「本当は丁寧に優しく施術したい」という方が多いんです。

命を預かる立場として、ワンちゃんと飼い主さんが安心して「うちの子をお願いね」と任せられるトリミングサロンを増やしたい。私のサロンだけでなく、業界全体がそう変わっていけたらいいなと思っています。

日本では、まだ殺処分が行われている現状です。ワンちゃんの地位が上がり心を理解し、家族として大切に飼う方が増えるように。そんな道標になることも、私のサロンの使命だと考えています。 

ーー 橋本さんが、この業界の道標になっていくんですね。素敵です。

そうありたいな、と思っています。北原さんがいつも「待てる環境を作れ」と仰っていますよね。それがそのまま、ワンちゃんのトリミングにも当てはまります。

時間の余裕、心の余裕があるだけで、対応が大きく変わる。待つ余裕があるからこそ、ワンちゃんのペースに合わせられる。30年以上この業界に身を置いて「それがすべてだな」と、改めて確信しています。


取材を終えて

お話を伺い、橋本さんは「愛情にあふれた方」だなと感じました。幼少期からたくさんの動物たちに囲まれ、その死や別れを体験してきたからこそ、命を丁寧に扱うことが自然と身についているのだと思います。

ただトリミングをするのではなく、ワンちゃんの気持ちを優先した滞在型スタイルを貫いているのも、その信念の表れですね。人とのコミュニケーションが苦手と話しながらも、同業者の交流の場を作っているのは、それだけペット業界への思いが強いからなのでしょうね。命と向き合うことを諦めない橋本さんなら、きっと業界の道標になっていけると感じています。

(記事制作:ひとひら企画/インタビュアー:渡辺まりこ、人生の軌跡グラフ制作:Emodea・相場綾香)

※掲載情報は2026年4月現在のものです。最新情報は公式サイト等をご確認ください。