【美容室経営|谷口聖典】初月10万円から年商6000万円へ。「不器用な美容師」が学び続ける理由
奈良県で美容室「atelier RICO」を2店舗経営する谷口聖典さん。髪質改善・頭皮改善を軸に、「傷んでからケアする」のではなく「そもそも傷ませない」ことを重視し、完全個室・マンツーマンで一人ひとりのお客様と向き合っています。
中学3年生で美容師を志したものの、自身を「めちゃくちゃ不器用」と振り返る谷口さん。美容師になってからは退職も経験し、32歳で独立した自宅サロンは初月売り上げ10万円からのスタートでした。それでも地道に集客やリピート施策を積み重ね、2021年に店舗へ拡張移転、2025年には2店舗目をオープンし、年商6000万円規模にまで事業を成長させました。 その歩みを支えたのが北原孝彦さんでした。
2026年2月には北原孝彦アカデミー(※)にも参加。美容師としての歩み、経営で経験した失敗、そしてこれから目指すことについて聞きました。
※北原孝彦アカデミー:UBM(ビジネス行動管理大学)の学びをベースにしながら、北原孝彦のより近くで学ぶ区画。北原氏が直接指導にあたる。メンバーは経営スキルだけでなく、人としての在り方を学ぶ。
「傷んでから直す」ではなく「そもそも髪を傷ませない」美容室

――まず美容室「atelier RICO」の特徴を教えてください。
髪や頭皮をできるだけ傷ませず、5年後、10年後もきれいな状態でいられるようなケアを大事にしています。一般的には「傷んだからトリートメントで栄養を入れましょう」というイメージが強いと思うんです。でも、うちでは「そもそも傷ませない」ことをかなり重視しています。

――具体的には、どのようにして「傷ませないケア」をしているのでしょうか。
例えばカラーでは、施術前・施術中・施術後でトリートメントの役割を分けています。カラー前には髪の状態を整え、カラー剤のなかにも栄養分を補うものや、薬剤の作用を調整するものを入れています。さらにカラー後は、髪や頭皮に残った薬剤をできるだけ除去してから、さらに栄養分を補給します。
僕は、栄養分を入れること以上に、カラー後に薬剤を残さないことが大事だと思っていて。歯医者さんでいうと、虫歯になってから治すだけではなく、虫歯にならないように事前にケアしておく、という考え方に近いです。特に白髪染めをされる方は、年齢とともに髪が傷んだり、髪質が変わってきたりするので、そういう方の状態を少しずつ改善していくことを意識しています。

――あと、公式サイトを拝見しましたが、髪や頭皮のケアだけでなく、店内の環境にもこだわっていますね。
よくある半個室ではなく、ドアまでつけた本当の個室にしています。周りからは「そこまでやるの?」「お金をかけすぎじゃない?」と言われるくらいです(笑)。でも、お客様にとっては周囲を気にせず悩みを話しやすいですし、人見知りの方や、にぎやかな美容室が苦手な方にも来ていただきやすいと思っています。
それにスタッフにとっても、目の前のお客様に集中しやすい。マンツーマンなので、一人のお客様に最初から最後までしっかり向き合えます。
――完全個室なら周囲に会話を聞かれる心配がないので、お客様も悩みを話しやすそうですね。
そうですね。私たちは、まず話をしっかり聞いてから始めることを大事にしています。特に新規のお客様の場合は、30分くらいカウンセリングすることもあります。何も分からない状態でいきなり施術を始めると、本当の悩みを聞けないことがありますからね。
「ハサミ一本で人生を変えられる」不器用な少年が選んだ美容師の道

――谷口さんが美容師になろうと思ったのは、いつ頃ですか。
中学3年生くらいです。当時はテレビに「カリスマ美容師」がよく出ていて、それを見て「かっこいい。ハサミ一本で人の人生を変えられるんじゃないか」と思いました。それに会社員には「人に頭を下げながら、上を目指さないといけない」という勝手なイメージがあり、自分の頑張りで生きていける仕事に魅力を感じたんです。
――中学生の頃から美容師になると決めていたんですね。進路を決めるとき、周囲の反応はどうでしたか。
かなり反対されました。進学校だったので、大学へ行くのが当たり前という雰囲気で、先生も大学へ進学してほしかったと思います。父親からも「大学に行けるのに、なぜ行かないんだ」と言われました。でも、気持ちは変わらなかったです。
――いざ、美容専門学校に入学してからはどうでしたか。
とにかく練習しました。僕、本当に不器用で、めちゃくちゃどんくさいんです(笑)。パーマを巻くロッドも、初日はクラスのみんなが何本も巻けているのに、僕は1本も巻けませんでした。だから、休みの日も朝から晩まで練習して、コンテストに代表として出たり、賞を取ったりできるようになりました。

――すごい、努力が実を結んでいる!
でも、美容師になってからは、結構むちゃくちゃな人生でした。最初に入職したのは奈良のお店でしたが、オーナーは東京の表参道などで経験を積んだ方で、かなり厳しかったんです。「なんでこんなことで怒られるんだろう」と感じることも多く、精神的にしんどくなりました。今思えば、僕にも配慮が足りなかったと思うんですが、結局2カ月で辞めました。
その次のお店も「見て学べ」という職人的な空気が強く、「自分が思っていたのと違うな」と感じて2カ月ほどで辞めました。それまで何かを辞めることはほとんどなかったので、「このままではまずい」と思っていましたね。
「うちに来なよ」に救われた大阪時代、32歳でゼロから独立
――そこからどう立て直したのですか。
「さすがに長いこと働かないといけない」と思って、3店舗目では5、6年くらい働きました。シャンプーから始め、カラー、パーマ、縮毛矯正、カットと覚えて、スタイリストになるまで4年くらいかかりました。
その後、もっと多くの方を担当して経験を積みたくて、27歳くらいで大阪の美容室へ移りました。そのお店の店長だった尼寺一成(にじ いっせい)さんには、すごくお世話になって。僕がまだスタイリストとして駆け出しの頃から目をかけてもらい、技術だけでなく、「こういうお客様には、こう接した方がいい」といった接客についても、いろいろ教えてもらいました。
その後、奈良で独立したいと思い、一度奈良の美容室に移ったんですが、そこが自分には合わず、精神的にもしんどくなってしまって。そんな時、尼寺さんから「じゃあ、うちに来なよ」と声をかけてもらい、店長を務めていた大阪の別店舗で再び働くことになりました。あのとき助けてもらったことも、すごく大きかったです。32歳頃までそこで働き、結婚を機に奈良に家を買いました。その一室をもともと美容室として使えるようにしていたので、自宅サロンとして開業しました。

――順調そうに見えますが、開業して最初の滑り出しはどうでしたか。
全然売り上げがありませんでした(笑)。独立すると以前のお店のお客様が来てくださるケースもありますが、僕はゼロからのスタートでした。美容室にとって忙しい12月にオープンしたのに、初月の売り上げは10万円くらいで……。
――それは大変!焦りませんでしたか。
最初は意外とのんきだったんですよ。「家賃もかからないし、ゆっくりやればいいか」と。でも、何カ月経っても状況が変わらず、さすがにまずいと思ってホットペッパービューティーに申し込みました。それでも1年目は月商30万〜40万円、年間でも300万〜400万円くらいだったと思います。
そこで美容師向けのコンサルや勉強会に通い、集客やリピートについて教えてもらいました。公式サイトでブログをひたすら書くなど、できることを地道に続けました。すると2年目以降は月商60万〜70万円くらいまで上がり、3年目頃には年商1000万円近くになっていたと思います。
それで4年目頃になると、一人でやるのも楽しかったんですが、「もう少し店を大きくしたい」「スタッフを雇って店舗を広げたい」という気持ちが出てきました。それで、以前から面識のあった北原さんのもとで、本格的に経営を学ぶようになったんです。

「何言ってるんだ、この人」北原孝彦さんとの出会いが変えた経営
――北原さんとはいつ頃に出会ったのですか。
自宅サロンを開業した頃のことです。美容師向けの勉強会でお世話になっていた「kamiken.(カミケン)」の鈴木和敏さんが北原さんとつながりがあり、あるイベントに講師として来られたんです。
ただ正直、最初は「何言ってるんだ、この人」と思いました(笑)。当時の「Dears(ディアーズ)」はまだ1〜3店舗ほどだったと思うんですが、「3カ月で売り上げ80万円」「次回予約100%」「リピート率90%」と、話の内容がとにかくぶっ飛んでいて。僕は3年かけてようやく80万円くらいだったので、「どういうこと?意味が分からない」という印象でした。
そのときDearsのフランチャイズにも誘っていただいたんですが、当時は変なプライドがあって、「自分でやりたい」と断りました。今考えると、もっと早く売り上げを伸ばせていたんじゃないかと思いますけどね(笑)。

――それで4年目から、北原さんに本格的に経営を学ぶようになったんですね。
そうです。北原さんの公式サイトの片隅に、小さく「コンサル募集」のような案内が出ているのを見つけて、Facebookでメッセージを送りました。現在のUBM(※)や北原の精神と時の部屋の前身にあたるもので、当時は5〜10人くらいの小さな勉強会でした。
そこで「店舗を広げたい」と相談して、メニューや価格、単価などについてアドバイスをもらいました。特に印象的だったのが、「一度、自分が一人でどこまで売り上げを作れるのか、限界を知れ」と言われたことです。
それで休みなく働いて、夜遅くまでお客様を担当。早朝4時、5時から仕事をすることもありました。最終的に月商170万円くらいまでいって、「一人で働く限界」を経験。そのうえで、自宅サロンは狭く、人を雇うことができなかったので、2021年2月に店舗へ拡張移転しました。
※UBM(ビジネス行動管理大学):北原孝彦が代表を務めるビジネス塾。2020年に「北原の精神と時の部屋」として設立、2024年11月に現名称に改称。

――店舗を広げてからは順調でしたか。
いや、全然(笑)。スタッフを雇ってからは、その分のお客様も増やす必要があり、十分な売り上げをつけられず赤字になった時期もあって、「これ、潰れるんじゃないか」と思ったこともありました。
そこからは、リピート率や次回予約率を上げたり、口コミを書いてもらったり、ブログや公式サイトを作り込んだりして、一つひとつ取り組んでいきました。僕自身、どんくさいタイプなので、何か一発逆転の施策があったわけではなく、地道にやっていくしかなかったんです。
――採用面ではどうでした?
一番辛かったのは、そこかも。最初に採用したスタッフには、面接のときに「こういうお店です」と説明していたんですが、実際に働き始めると「これはやりたくない」「あれもやりたくない」と言われて、かなり揉めました。最終的には辞めてもらったんですが、「訴える」と言われるくらいのところまでいって。ご飯が食べられなくなって、5キロくらい痩せました(笑)。
その後、雇ったスタッフも欠勤がかなり多く、お客様の予約が入っているのに当日来られないこともありました。北原さんからは「雇っちゃいけない人を雇いすぎだ」と、めちゃくちゃ怒られて。「谷口さんと(アカデミー生で美容師の)長田美奈さんは、ちょっと同じ匂いがする」とも言われました。

――そうした経験から、採用は変わりましたか。
かなり変わりました。面接や見学の段階で、どういう人なのかを以前よりしっかり見るようになりました。今は最初から正社員として採用するのではなく、まず一定期間働いてもらい、お互いに相性を確認したうえで正社員になる形にしています。
「一人だと本当に行動できない」アカデミーで学び続ける理由

――谷口さんは2026年2月にアカデミーに入りました。参加しようと思った理由は何だったのでしょうか。
正直、最初から「絶対入りたい」と考えていたわけではないんです(笑)。北原さんの顧問を卒業してからもUBMには通っていたんですが、北原さんから「近くに来い。離れるな」と言われたんです。 そこで「今日、説明会を受けに行きます」と伝え、そのまま参加して申し込みました。
正直、断れないですよね。北原さんはすごく誠実で、不義理をしない、裏切らない人です。それに、僕が自宅サロンから抜け出して、スタッフを雇えて、2店舗目まで出せたのも、北原さんから学んだことが大きい。北原さんに会っていなかったら、今も自宅で一人でやっていた可能性は高いと思います。「近くに来い。離れるな」と言われたら、断ることなんかできません。

――アカデミーに入ったきっかけは北原さんの一言だったわけですが、アカデミーで学ぶ意義って何ですか。
一番は、自分を動かせる環境に身を置けることですね。僕は一人だと本当に行動できなくて。例えば山本智大さんに「こういう内容でInstagramを撮ってみたら?」と言われても、すぐやればいいのに、いろいろ考えているうちに2、3カ月、4カ月と平気で過ぎてしまうんです。
でも合宿に行けば、北原さんの話を聞いたり、山本さんから「早くやれ」と言ってもらえたりする。毎回そこで活を入れてもらって、ようやく動けます。だから、自分を強制的に動かすためにも、そういう環境に身を置き続けています。
――北原さんと山本さんでは、アドバイスの仕方も違いますか。
違いますね。山本さんは、より実践的というか、「集客ならこうした方がいい」「リピートならこう」「求人ならこう」と、具体的な施策をすぐ教えてくださるタイプです。一方で北原さんは、あえて答えを全部言わずに「自分で考えろ」という余白を残すタイプだと思っています。
10店舗はゴールじゃない、学んだことを「周りに返す」未来へ

――これから、事業をどのようにしていきたいですか。
数字でいうと、お店を10店舗くらいにはしたいと思っています。昔から言っている目標なので、まずはそこを一つの目安にしています。
ただ、アカデミーで改めて学ぶようになってから、店舗数だけではなく、「もっと多くの人と関わって仕事をしたい」という気持ちが強くなりました。今はまだ、自分一人で事業を動かしている感覚がありますが、これからはいろいろな人とつながって仕事をしていきたいと思っています。
――地元・奈良との関わりについては、どう考えていますか。
もっと活性化したらいいなと思っています。まだ漠然としていますが、同じくらいの規模で事業をしている経営者の方たちと関わって、お互いに協力しながら成長できたらいいですね。
――経営者同士のつながりを広げて、どんなことができたらいいと思いますか。
困っている人を、少しでも助けられたらいいなと思っています。僕自身、北原さんや山本さんをはじめ、いろいろな方に教えてもらったことで成長できた部分があります。だから、自分が学んできたことも周りに伝えていきたいなと思っています。

取材を終えて
「自分は不器用なんです」「どんくさくて」。谷口さんは取材中、何度もそう言っていました(正直、そこまで素直に弱さを話してもらえるとは思っていなかったので、少し意外でした)。
でも話を聞くうちに納得しました。結果を出すための近道はなくて、ブログを書いたり、口コミをお願いしたり、そういう地味なことをコツコツ続けてきたことが大事だったんです。「さっさとやる」の精神できちんと結果を残してきたからこそ、今では笑い話として話せるのでしょうね。継続の偉大さを感じました。
(記事制作:ひとひら企画/インタビュアー:渡辺まりこ、人生の軌跡グラフ制作:Emodea・相場綾香)
※掲載情報は2026年7月現在のものです。最新情報は公式サイト等をご確認ください。

