【美容室経営|森井伸明さん】会うことで人生は変わる 過酷な下積みと兄との決別を越えた美容師に人が集まる理由

大阪と三重で美容室「sincere(以下、シンシア)」を2店舗運営し、現在は10県14美容室のサポートの森井伸明さん。髪質改善や美髪ストレートを軸に、年齢を重ねてもきれいな髪でいられるよう、一人ひとりに合わせた施術を提案しています。

ただ、ここまでの道のりは決して順風満帆ではありませんでした。20代前半には、寝る暇もないほどの過酷な下積みを経験。さらに北原孝彦さんとの出会いや、兄との決別を経て、森井さんの美容室経営は少しずつ変わっていきました。

そんな森井さんが、成長のためにたどり着いた答えは「人と会うこと」。もともと一人でいることが好きだった森井さんは、なぜ自分から人に会いに行くようになったのでしょうか。これまでの半生をたどりながら、その転機を探ります。

髪も働き方も、長く続く形へ。sincereが目指す美容室づくり

――まず、今のお仕事について聞かせてください。sincereはどんな美容室ですか。

表向きには髪質改善の美容室と打ち出していますが、実際にはカット、カラー、トリートメントまで含めて、その方の髪の状態に合わせて提案する美容室です。

女性は年齢を重ねると、髪がだんだんゴワつきやすくなってきます。いわゆる髪のエイジングですね。そこをきちんと理解していただくために、来店された方には最初に30分ほどカウンセリングを行っています。

――30分ですか!かなり長いですね。どんなことを話すんですか?

たとえば、「お肌って、20代まではハリがあっても、年齢を重ねると少しずつ変化していきますよね。実は髪の毛にも同じように老化があるんです」とお伝えします。美髪の話もします。

そのうえで、今までと同じようにカラーだけを続けていると、ダメージが蓄積し、髪がよりゴワつきやすくなることを説明します。まずはご自身の髪の状態を理解していただき、「この美容室に通う必要があるんだ」と納得していただくことを大切にしています。

――髪のエイジングケアとは、具体的にはどんなことをするんですか。

エイジング予防のためのカットやカラー、エイジングケアとしての髪質改善ですね。言い方が難しいんですが、髪の老化現象を抑えるための施術をしている、という表現が近いと思います。

――髪質改善やカラーはイメージしやすいのですが、カットでエイジング予防をするとは?

髪の毛って「すく」ことが多いと思うんです。「重たいからすいてください」「広がるから軽くしてください」と美容室で言われることも多いのですが、たくさんハサミを入れると髪の表面が削れていき、だんだん広がりやすくなるんです。

だから美容室で仕上げてもらった当日は、アイロンやブローできれいに見えても、家に帰ってお風呂に入り、自分で乾かすと髪が広がってしまう。これでは再現性がないので、うちではすいて軽くするのではなく、まず髪の膨らみや重さを取るための施術をしてから、カットをしています。大体、リピートのお客様の8〜9割ほどが受けていますね。

――どんな流れで進めていくんですか。

1回目はトリートメントで髪の体力を少し回復させて、髪の状態を整えます。そのうえで、2回目以降の良いタイミングでカットやストレート施術を行う、という流れです。美容クリニックでカウンセリングを受けたあと、化粧水などで1週間から1カ月ほど土台を整えてから施術していく感覚に近いと思います。

――カットは分かるのですが、ストレート施術というのは?

「美髪ストレート」といって、考え方としては縮れている髪や広がりやすい髪をまっすぐに整える縮毛矯正に近いです。ただ、うちでは髪への負担をできるだけ減らした方法でストレートにしています。

――具体的には、どうやっているんですか?

少し専門的な話になるのですが、一般的な縮毛矯正ではアルカリ性の薬剤を使うことが多いんです。アルカリ性の薬剤は髪を反応させる力が強い一方で、髪への負担も出やすい。プールに入ったあとに髪がバシバシになることがありますが、あれもアルカリの影響なんです

一方で、うちの美髪ストレートでは自社開発した酸性の薬剤を使っています。一般的なメニューより1万円から1万5000円ほど薬剤のコストは高くなりますが、お肌も弱酸性がいいと言われるように、髪に対しても酸性の方が負担を抑えやすいんです。

――髪をストレートにすることで、お手入れのしやすさが変わるんですか?

変わります。薬剤で髪の状態を整えることで、ボリュームが落ち着くんです。だから必要以上にすかなくてもよくなりますし、自宅でのお手入れもかなり楽になります。

過酷な下積みを経て、それでも美容師を諦めきれなかった理由

――森井さんは、もともと美容師になりたかったんですか。

いいえ。高校時代は長距離トラックの運転手に憧れていました。一人で過ごす時間が好きだったし、車で寝泊まりしながら、その土地でご飯を食べたりする。そういう生き方もいいかなと思っていたんです。

それで当時の生徒指導の先生に「トラックの運転手になりたい。もしくは大学で遊びたい」と話したら、「お前はアホやからやめておけ」と言われて(笑)。

――ははは(笑)。

それでいろいろ考えた結果、美容師がいいかなと。ただ、一度やると決めたらちゃんとやるタイプなので、美容専門学校に進み、無事卒業して、そこから大阪の繁華街にある美容室で働きました。

――美容師としてのスタートはどうでしたか?

ここからの話がめちゃくちゃ濃くて(笑)。そのお店は水商売をされている方も利用するような場所で、朝10時から24時まで働いて、その後、先輩たちの食事を準備する。深夜1時頃から3時頃まで練習をしていました。月給は9万円ほどで、社会保険もなし。休みも月に2〜3回ほどで、睡眠時間は1日4時間くらいでした。

――想像以上に過酷ですね……。

そういう生活を5年ほど続けていました。でも、お客様のカットを任せてもらえなくて。誰よりも頑張っている自信はあったんですけどね……。「もう人として終わりだな」と思ってしまって、仕事をやめて地元の奈良に戻りました。

ただ戻ってからも、今から人生を取り戻そうと思っても、学歴もないので普通の仕事には就けないんじゃないかと、かなりナイーブになっていましたね。

――それでも、もう一度美容師を続けようと思えたのはどうしてだったんですか?

専門学校の先輩から「もう一回、美容師として働かないか」と声をかけてもらったことがきっかけです。ただ、その美容室は以前の職場とは全然違っていて、細かくレッスンを重ねるというより、「一度教えたよね。じゃあ、できるよね」という感じでした。

最初は「いや、まだそんなに練習していないんだけど」と思う部分もありましたが、実際に現場に立ちながら覚えていくしかなかったです。

兄の支援で独立 そして師匠との出会い

――そこから、どういう流れで自分のお店を持つことになったんですか?

3年ほど働いたあと、そのお店が閉店することになったんです。そこで「長距離トラックの運転手になろうかな」と考えていたのですが、兄から「資金は自分が出すから、一緒に美容室をやらないか」と声をかけられて。

兄は美容師ではありませんでしたが、リクルート関係の仕事をしていました。それで兄からの支援を受ける形で、2020年に最初の美容室経営に挑戦することになりました。

――最初の美容室では、どんなことに取り組んでいましたか。

髪質改善を軸にしたお店作りをしました。美容室って、カットやカラーだけではなかなか利益を出しづらいと思っていたんです。その頃、北原さんが「髪質改善」で縮毛矯正などを行い、お客様の髪をきれいにして再来を促すモデルを実践されていて、そこに自分も魅力を感じていました。

あとは、カットができないスタッフも採用して、「カットがまだできない人でも活躍できる仕組み」を作りました。そうしたら2年で15店舗、年商10億円規模までバコーンと伸びていきました。

――かなり急速に伸びましたね。先ほど北原さんの名前も出ましたが、知ったきっかけは何でしたか?

兄が「この人はすごい経営者だ」と話していたことがきっかけで、そこからYouTubeを見るようになりました。その後、北原さんが運営されていた「北原の精神と時の部屋(※)」に入りました。たしか2021年頃だったと思います。

※北原の精神と時の部屋:北原孝彦が代表を務めるビジネス塾。2020年に設立し、2024年11月にUBM(ビジネス行動管理大学)に改称。

――北原さんの考えを取り入れたことで、何が変わりましたか?

一番大きかったのは、仕組み化です。美容師は、ハサミを握るまでに3年から5年かかると言われます。でも、マニュアルを整えて再現性を高めれば、1年でスタイリストを育てることもできる。そうすれば、すぐに売上を立てられるようになります。

あと、三方よしの考え方も大きかったです。北原さんは、会社、自分、スタッフ、お客様、周囲の人たちまで含めて、どうすれば全体にとって良い形になるのかを考えている方だと思っています。

ただ同時に、この頃から兄の経営の考え方に対して、少しずつ違和感を持つようになっていきました。

――お兄様の話はYouTubeでもしていましたね。その違和感は、どのあたりにありましたか。

どちらかというと、兄は感覚で動くタイプなんです。「こうなったらいいよね」くらいの、なんとなくのイメージで進めてしまうところがあって。一方で、僕は全国制覇したかったし、当時はそれができるくらいの勢いもあったと思っていました。

「今年で最後」と決めて、今までの自分を捨てた2026年

――その後、2023年にsincere1号店をオープンしました。前の会社では急速に店舗を広げていましたが、開業後は順調に進みましたか。

集客の面では順調でした。ですが、求人がまったくうまくいかなくて。前の会社では、美容師仲間に声をかけて、一人採用されると、その子がまた別の人に声をかけてくれる。会社で一番の評価を求人においていました。そういうリアルのつながりで、2年でスタッフが100人から150人くらいまで増えたんです。でも、大阪でsincereを始めたときは、周りに美容師仲間がいなくて……。

――美容師同士の横のつながりを作ろうとはしていましたか?

そこが僕のアホなところで、独立してからの3年くらいは、ほとんど人と関わっていなかったんです。ほら、一人って楽じゃないですか。人と関わるよりも、家でゆっくりしていた方が自分のペースで過ごせるし、気を遣わなくて済む。ただ、それを続けていても何も変わらないよなと、今年になってようやく気づきました。

それでUBM(※)を「今年で最後にしよう」と決めて、自分のやり方を全部捨てて、言われたことを素直にやってみたんです。そうしたら、バコーンと成長して。

※UBM(ビジネス行動管理大学):北原孝彦が代表を務めるビジネス塾。2020年に「北原の精神と時の部屋」として設立、2024年11月に現名称に改称。

――具体的には、何を変えましたか?

まず、人と会うようにしました。あとは、自分でセミナーを開いたり、Instagramで「勉強会をします」と発信して、大阪の難波などで美容師さんと話す場を作ったりしました。振り返ると、自分が一番うまくいっていたときって、人のために動いているときだったんです。そこに気づいてからは、ひたすら動くようになりました。


――そのセミナーは、森井さんが主催しているんですか?

はい。ただ、ここまで来られたのは北原孝彦アカデミー(※)(以下、アカデミー)の美容師チームのおかげです。

最初にセミナーを開いたとき、美容師の遠山直人さんと一緒に登壇したんですが、告知も集客もチームが全面的にサポートしてくれました。あの経験で、自分の本来の力を思い出せた気がしています!

今はそのつながりから生まれた美容師コミュニティを、アカデミーのメンバーみんなで運営しています。

アカデミー美容師チームはそれぞれ得意分野が異なっていて、山口剛広さんと遠山さんはビジネスの仕組みづくり、やしまひとみさんはフリーランス・ママ美容師の働き方支援、長田さんはホットペッパーに依存しない経営とMeta広告、そして僕はホットペッパーでの集客を強みにしています。どんな悩みにも対応できる最強のチームなんですよ!

※北原孝彦アカデミー:UBM(ビジネス行動管理大学)の学びをベースにしながら、北原孝彦のより近くで学ぶ区画。北原氏が直接指導にあたる。メンバーは経営スキルだけでなく、人としての在り方を学ぶ。

「自分も変わらなきゃ」。仲間の姿に、行動の基準が変わった

――アカデミーの中で、他に刺激を受けている方はいますか。

特に刺激を受けているのが、バックオフィスなどの業務改善コンサルタントをやっている平井裕さんと深井塾の深井裕樹さんです。

平井さんは以前から、「なんでこの人はこんなに動けるんだろう」と思っていたのですが、実際にセミナーを受けたらめちゃくちゃ感動して。人との接し方や向き合い方の部分で大きな気づきをもらいました。

深井さんは、報告や相談の頻度、そして行動を記録して改善につなげるところがすごいんです。北原さんが「一番連絡をやり取りしている方」として深井さんの名前を出していて、実際、2、3日に1回くらいの頻度でやり取りをしている。アカデミーの休憩時間にも、毎回のように話しに行っているんです。それを見て、「成長している人は、報告や相談の頻度がまったく違う」と感じました。

僕もそこから、北原さんに毎月どんな報告をしたかをノートに書くようになりました。2月は何回報告したか、3月は何回報告したか。そうやって行動を見える化すると、報告するためにPDCAも回るんです。自分の成長の基準も、少しずつ変わっていきました。

あと、大阪支部会のメンバー・アカデミーの皆様にも本当に感謝しています!

――以前の森井さんは「一人は楽だから」と思っていた。でも2026年に入ってからは、人とつながり、みんなで動く方向に大きく変わっていっていますね。

一人より、みんなでやる方がいいと思えるようになりました。僕はよくUBM大阪支部会に参加していますが、メンバーには「僕みたいな人を作りたくない」と話していて。僕自身、北原さんのもとで5年間学んではいるけれど、思うように動けないし、結果も出せなかった。だから同じようにうずうずしている人の気持ちがすごくわかるんです。

そういう人たちに、寄り添って「このやり方でやってみてね」と、小学生でもわかるくらい噛み砕いて伝えるようにしています。そうすると、皆さんすごく喜んでくださって。最近では周りから「マザーテレサ」と呼ばれています(笑)

森井さんと一緒に働きたくなる理由

――森井さんは、北原さんのどんなところに惹かれているんですか?

一本軸が通っているところです。北原さんは、社長が一番先頭に立って働くべきだという考えの方で、それが自分が昔から大切にしてきた価値観と重なります。

もともと僕は、スタッフを職人のままで終わらせるのではなく、いずれはグループ会社の社長になってもらうような形が理想だと思っていました。北原さんも以前、「いずれは皆さんに会社の社長、会長になっていただきたい」と話されていて、そこに強く共感しました。

さらに、社会に還元したいという思いについても、「一人でやっていても一人分の力でしかない。組織を大きくすれば、もっと大きな規模で社会に還元できる」と教えていただいて、自分の中の視座が大きく変わりました。

――森井さんの心意気も含めて、すごく伝わってきます。

僕は、昔から人が集まるタイプだったのだと思います。高校時代は決して優等生ではなく、学校に通えない時期もありました。それでも、卒業が危うくなったときには周りの友人たちが署名活動をしてくれて、最終的に卒業できたんです。

兄と一緒に会社をやっていたときも、同じような感覚がありました。組織は最終的に200人ほどになりましたが、そのうち100人くらいは自分が集めた実感があります。

ただ、この3年ほどは修行期間のような感覚で、そうした力をあまり出せていませんでした。今、ようやくまた人が集まる流れを作れている気がします。

――森井さんって、人に好かれるタイプですよね。

ありがとうございます。嬉しいです!僕はアカデミーの中でも、かなり変わっている方だと思います。立ち回りも発想も浮いている。でも、そんな自分でも、言われたことを素直にやれば少しずつ成果が出る。それを見て、「この人でもできるなら、自分もやってみよう」と思ってもらえるんだと思います。

――そういうところも含めて、周りの人が応援したくなるのかもしれませんね。

周りの皆さんに助けてもらってばかりなんですよ。僕はアカデミーの皆さんのことが、本当に大好きです

◆美容室経営|森井伸明さん


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※オンライン勉強会:月1回ほど開催。参加希望はInstagramのDMから受付。
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取材を終えて

森井さんの魅力は、なんといっても親しみやすさです。「僕はアカデミーNo.1のアホです!」。そう言い切れる人が、果たして何人いるでしょう……。普通ならプライドが邪魔をする場面でも、森井さんは笑顔で自虐できる。だからこそ周りの人が「この人なら話しかけていいんだ」「味方になってくれそう」と感じるんだと思います。

明るさとへこたれない強さ。そして人を惹きつける独特のキャラクター。これからアカデミー美容師チームの活動がさらに広がっていく中で、森井さんの存在がどれだけ多くの人の背中を押すか、今からとても楽しみにしています。

(記事制作:ひとひら企画/インタビュアー:渡辺まりこ、人生の軌跡グラフ制作:Emodea・相場綾香)

※掲載情報は2026年4月現在のものです。最新情報は公式サイト等をご確認ください。